作業場から天根さんの軽トラックに誘導されて数分、舗装された道路から脇道にそれて小さな坂道を上がっていくのだが、軽々上がっていく軽トラを一旦見送り、編集部のミニバンは念のため道端に止めて歩いて上がることに。といっても何分もかからない。坂を上がりきると一気に視界が開け、そこには大根畑が広がっていた。
畑の左右はまだ手つかずでフサフサ緑色、真ん中部分の大根はすでに抜かれた後で、黒々と土がむき出しに。これが火山灰由来の土壌「黒ボク」の大地だ。その上を歩いてみると、やわらかい着地感。天根さんは、ワサワサと茂る葉をかき分けて、リズミカルにしゅぽっ、しゅぽっと大根を引っこ抜いていく。両脇に数本ずつ抱えてはトラックに運んで、またしゅぽしゅぽ。よっこらせ…ではない。ずいぶんと簡単に抜いているように見えるので「抜いてみてもいいですか」と許可をもらってお手伝い。葉をかき分けると黒い土から大根の白い肌がひょっこり顔を出している。葉の根元部分を握り、よっ! と引き揚げると、拍子抜けするくらい、するっと素直に出てきてくれる。もちろん、これを一本や二本では済まないので重労働には違いないのだが。大根を育む黒ボクの優しい包容力を肌で感じることができた。
「高野で大根づくりが始まった当初は漬物用だったのが、そのうち品種改良されて生でも食べられるものになったそうです」と教えてくれたのは、和南原加工グループに大根を提供している天根公昭さん。勤めに出ていた職場を28歳で退職し、父親から大根づくりと米づくりを受け継いだ。この地でおいしい大根が育つのは、冷涼な気候と黒ボクの土壌のおかげだという。火山灰土の黒ボクは「三瓶山が火山だった頃に降り積もったという話もあります」とのこと。
和南原加工グループとのご縁は「種をまいてくれないか」から始まり「抜いてくれないか」など、最初は農作業のお手伝いだった。それが最終的に「つくった大根を売ってほしい」という取引になったのだという。今では天根さんがつくる年間10万本のうち4000本ほどを和南原加工グループに納めている。高野の大根は、夏は6月、秋は11月が出荷のピークとなるが、加工には、主に11月頃からとれる大根を使っている。
天根さんおすすめの食べ方を聞いてみると「やっぱり大根おろしが一番簡単でおいしいんじゃないでしょうか」との答え。さらに「女房がつくってくれて好きになったんじゃけど、短冊切りにした大根に塩をまぶして水分を抜くんです。それにマヨネーズとツナを混ぜて食べるんです」と家庭の味を教えてくれた。
今回の取材で最も驚いたのが、午前2時頃から畑で作業をしていること。10月の中旬頃からは気温が低くなるので、前の日に抜いて洗っておいてもいいが、今の時期は暑くて大根が傷みやすいので、できるだけ涼しい時間帯に洗う作業まで終わるよう逆算すると、スタート時間がどうしても早くなってしまう。真っ暗闇でイノシシを見かけることもあるそうだ。
軽トラに山積みにして作業場に持ち帰った大根は、天根さんがほど良い長さで葉を切り落とし、洗い機に入れる。水槽に流れてきた大根をお母さんたちが二人がかりで一本一本丁寧に、でも素早く洗い、水から引き揚げてさらに余分な葉を根元でカットし、サイズ別に箱詰めしていく。どっしりと太くて長い高野大根。積み上がるとなかなかの迫力だ。
身近な食材として食卓でも重宝する大根。手軽に楽しめるイメージだが、植え付けから収穫、その後の過程にこれだけの人の手がかかっていることを知ると、より一層有り難みが増してくる。
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掲載記事内容は取材当時のものであり、
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