その翌年「2020年、梶谷くんの鼻がへし折れた年ですね」そう振り返るのは、まだ記憶に新しい(まだその渦中にある)新型コロナウイルスの感染拡大によるコロナ禍だ。
つくればつくるほど売れて、2020年はオリンピックも見込んで従業員も増員し、増産体制で準備していた。それが、飲食業界が前代未聞の自粛という大ダメージを受け、当然、梶谷農園も大きな影響を受けた。「飲食店から個人向けに商品を切り替えたり、加工品を作ったり、あの手この手で最悪の2020を乗り越えました」。外食から宅食ニーズを見据えて戦略を練り直したことも功を奏して、2021年の10月頃からようやく回復基調となり、むしろ最高の決算で終えられそうな見通しだという。
現在育てているハーブの種類は数えていないから分からないという。「つくるのが難しい野菜を、研究を重ねて成功させるというドラマチックな展開もありますけど、僕は、できないものはすぐに諦めて、たくさんできるものを大量生産するのが基本。色、香り、味、個性が分かりやすいものというのが、一つの判断基準かもしれませんね」。
同じハーブでも注文に応じて育て分け、料理人が納得するものを届ける。そうやって譲さんの代から特注対応をしてきた料理人とは、今でも付き合いがある。そういった対応には高度な技術とものすごい労力と時間を要するため、いくらでも引き受けるというわけにはいかず、現在はそのような個別対応については新規取引を受け付けていない。今取り引きできるのは、その日におすすめのハーブを梶谷農園が厳選して詰め合わせるおまかせパックのみとなっているが、こちらも相変わらずの人気だ。
現在、日常の顧客対応については義姉の朋子さん(耕治さんの妻)が担い、長男の農(つとむ)さんもネットワーク関係を中心に携わり、共に梶谷農園を支えている。
「昔おばあちゃんから聞いたのですが、種をまく人の『手』によって、生え方が違うらしいんですよ。その人がまくと、よく芽が出るっていう『手』があるって。それっておそらく、何気ない気遣いとかどれだけ植物を観察しているかとか、細かい差によるものなのでしょうけど、うちではお父さんと譲がその『手』を持っていて、二人がまくと違うなって分かります」と朋子さん。
譲さんは「農園のことは全部朋ちゃんに任せていますから」と言うが、それに対して朋子さんは「敷地のどこに何が生えているとか、今でも農場のことを隅々まで一番把握しているのは譲。本人も自分で植物が好きだと公言しているだけあって、本当によく観察しているし、どうすれば良く育つかなど改善点もものすごく考えていますから、心底好きなのだと思います」。梶谷農園の動き一つ一つに植物への深い愛情が根付いているからこそ、多くの人の心をつかみ、ここでしかできない個性豊かなハーブが育つのだろう。
農園に関しては、譲さん自身、当初目指していた形がひとまずは完成したと見ている。「僕がいなくても回るシステムを確立したので、今は次のステージに向けてアイデアを練っているところ。まだ具体的には浮かびませんが。農業が軸になることは変わらないと思いますけどね。そこは大切に守りながら『食のディズニーランド』みたいな形で何かできれば楽しそうですね」。
梶谷農園公式サイト
https://kajiyafarm.jp/
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