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ひろしま食物語 ひろしま食物語

農業のある風景に憧れて

2021年3月執筆記事

広島市安佐南区沼田町
山本農園

山本 真也

 もともと草花や木々などの植物が好きで、大学は農学部に進学して造園を専攻していたという山本さん。大学卒業後はイギリスに3年間留学し、ガーデンデザインなどを学んだ。
 自然が豊かな町で、広大な小麦畑などが広がる光景を見ながら生活する中で「農業のある風景がすごくきれいだなと感じたんです。のどかな田園風景にひかれました。田舎が荒廃しているというようなニュースを見聞きして、そんな状況も嫌だなと思って」。
 風景という視点から農業に興味を持つようになった山本さんは、帰国後、農家でアルバイトとして働いた。風景への憧れから入ったとはいえ、農業で生活するのは大変だという話も聞く。まずは生活できるだけの基盤をつくらなければと思い、就農するなら地元である広島でという希望もあって、広島市の「ひろしま活力農業経営者育成事業」で研修を受けることにした。今田さんや中岡さんも参加した事業で、二人は9期生、山本さんは13期生だった。

 研修を無事に終えて独立したのは2011(平成23)年。東日本大震災の年で資材が手に入りにくかったことが記憶に残っているという。現在の場所にビニールハウスを12棟建て、小松菜を作り始めた。最初から比較的順調で、当時はつくったらつくった分だけ収入が得られたが、小松菜のつくり手が増えて市場に多く出回るようになると、少しずつ厳しさも感じるようになった。
 そんな時、今田さんから@landに誘われ、販路を拡大するのに水菜をつくってみないかと相談があり、せっかくなのでチャレンジしてみようと水菜栽培に着手。切り替えて一時的に所得が200万円くらい下がったというが、その後安定し、現在は水菜が主力となっている。ビニールハウスは就農当初から4棟増え、16棟になった。
 「どれだけ良いものをつくっても、みんながつくりやすくてたくさん出回ると単価が下がってしまいます。もちろんいいものをつくるのは大前提ですが、経営を成り立たせるには、取引先をしっかり確保しておくことが大事です」。そういった意味でも@landで協力し合えることは心強くもある。

 造園から農業のある風景へ、そして農業へとたどってきた山本さんは、農業をどのように感じているのだろう。「農業は大変だとか生活するには厳しいとかいう話はよく聞くし、研修でもすごく言われたんですよ。確かに大変なこともありますが、自分でやり方を考えて工夫すればなんとかなるものだし、周りが言うほど大変ではないなというのが正直な感想ですね」。
 雇われる側ではなく自ら経営する側であることも大きいのではと山本さんは語る。「サラリーマンは経験していないので分かりませんが、同じ農業でも、経営者として自分で決められる立場だから楽しいのかもしれませんね。従業員だとまた感じ方が違うのかも。基本的に毎日同じ作業の繰り返しですから、従業員として決められた作業をただこなすだけでは面白さは分からないかもしれません。自分で決めたことだから、単純作業にも意味があると頑張れるというか」。

 就農して10年、まずは生活を成り立たせるためにしっかり収益を上げることを目標に取り組んできた。収益を安定させるには、一つの品目に集中し、年間を通じて安定供給ができる体制を整えておくのが理想。だからこれまでは水菜1本で進んできたが、そろそろその段階はクリアできたかなという実感がある。そんな今、次なる目標が見えてきたという。
 「たまに家庭菜園で野菜をつくると、感動するくらいおいしくできることがあるんですよ。今後はそういう品目を増やして売っていきたいなと考えています。ものによっては流通に向かない品目もあるのですが、それをどのように出そうかとか」。
 農業の道に進むきっかけとなった「農業のある風景」への思いもある。「いつかは実現したいですね。戸山を訪れる人たちが楽しんでくれるような風景づくりを」。
 自分が関わるまでは「農業」と聞いて決まったイメージを描いていたけれど、実際に自分で手がけてみると、農業にもいろいろなスタイルがあることに気づいたという山本さん。
 「農家によっても考え方ややり方がみんな違うんですよね。いろんなスタイルがあるから、これから就農する人たちは、自分がどんな農業を目指したいのか、始める前にいろいろなスタイルを見た方がいい。考え方ややり方次第で、農業はまだまだ何でもできる。もっと発展する可能性を秘めていると思います」。

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掲載記事内容は取材当時のものであり、
現在の内容を保証するものではありません。