思う存分泥んこ遊びを楽しめそうな田んぼ。果たしてここでどんな作物が育つのか。水面をよく見ると、枯れ果てた茎や花托が浮かび、ところどころにずんぐり長細い白い肌の物体が。そう、ここは蓮根を育てている田んぼ。今期の植え付けが始まったと聞いて、4月26日、三原市大和町の金原農園におじゃました。
蓮根といえば全国的には茨城県や徳島県が知られ、中国地方では岩国の知名度が高いが、ここ大和町でも20年ほど前から栽培されるようになり、今では「大和白竜蓮根」として地元を中心に人気の特産品となっている。標高の高い中山間地域では朝晩の寒暖差が甘みや粘りなど蓮根の食味にプラスに作用し、おいしい蓮根を育む。糖分をしっかりたくわえることで、真冬の凍り付くような水の中でも凍結しないよう身を守ることができる。
蓮根は「蓮の根」と書くが、根ではなく「地下茎」が肥大化したもの。蓮根の特徴である複数の穴は水面上に伸びている茎や葉とつながる通気孔。大気中の土よりも酸素の少ない水中の泥の中でも十分に空気を取り込めるように、通常の植物よりも大きな穴が空いているというわけだ。
金原さんが扱っているのは「支那白花」という品種で、肉厚と粘りが特徴。多くの品種は基本的に穴が8つだが、支那白花は9つ開いているのも特徴だ(個体差あり)。
今シーズンのために採取しておいた種蓮根をそりに積み、金原さんはズブズブと田んぼへ。ひざ下ほどの深さがある泥水をかきわけながらゆっくり進み、腰をかがめて、節からニョキニョキと伸びている芽が全部埋まってしまわないように、適度な間隔を開けながら一つ一つ底の土に埋めていく。金原さんは基本的には一人で全ての工程をこなすと聞いて、見るからに地道な作業がさらに気が遠くなるような作業に思えてきた。
一面茶色の泥水に、じ~っと黙って沈んでいる種蓮根。表面的には何事も起こっていないこの田んぼが、季節の移り変わりと共にどのように変化していくのかなと楽しみに、農園を後にした。
種蓮根の植え付けから約2カ月が過ぎ、7月11日に再び訪問。一面茶色だった水面には大きな盃のような蓮の葉が広がり、爽やかな緑色に。よく見ると緑の合間に大粒にふくらんだ白い蕾も。蓮といえば仏教ではお釈迦様を思い浮かべる人もいると思うが、まさにお釈迦様が現れそうにも思える光景。葉の上で一休みするカエルの姿もチラホラ見かけ、至る所に生命の息吹を感じながら、水面下でスクスク育っている蓮根の生長を想像し、収穫の秋がますます楽しみになった。
この頃になると蓮の花が開き始めるが、花は早朝に咲き、昼にかけてだんだん閉じていき夕方にはつぼみに戻ってしまう。これを4日程度繰り返して散っていく。いつでもいつまでも見られるわけではない蓮の花。今回は大きく開花した姿を撮影できなかったことが心残りだが、堂々と咲き誇った後、枯れ果てて頭を垂れた姿には、命のはかなさや無常さと同時に、命の限り生きた気高さを感じられ、また違った意味で心を引きつけられる。
心配なことが一つ。金原さんいわく6月から7月にかけての日照不足が影響し例年に比べて蓮の葉の生い茂り具合が足りないそうだ。10月上旬から収穫期に入るが、今年は収量不足が懸念される。この時期はたっぷりと日に当てることが重要で、朝から夕方まで直射日光が当たる金原さんの田んぼは理想的な環境だが、天候不順が続くと生育不足に直結してしまう。次に訪れるのは収穫期。立派な蓮根に出会えますように。
金原農園レンコン直売所
三原市大和町大草4305-2
シーズン中(10月~3月)のみ販売
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