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ひろしま食物語 ひろしま食物語

清風が吹くようなお茶

2018年7月執筆記事

尾道市
TEA FACTORY GEN

髙橋 玄機

 「お茶本来の味を追求すればするほど、自然に帰るんだと思う」玄機さんが求めるのは、お茶本来のおいしさと、環境面に配慮した持続可能なお茶づくり。「世界で初めてお茶について書かれたといわれている『茶経』という大昔の書物に、上等なお茶とは茶園のお茶ではなく自然に生育しているお茶だと書かれています。昔と今では人の嗜好ってだいぶ変わったんだなって。お茶本来のおいしさを追求するなら肥料は使わない方がいい。肥料をやらなくても育つのは、何度も摘まないから。だから自然にある微量の栄養素でも芽が伸びるんです。当然その分収量は減るので、価格を上げざるを得ないんです」。
 お茶によって求める味は違うが、たとえば煎茶の場合、玄機さんの理想の味は「旨味がないお茶」。旨味がないとおいしくないのでは? と一瞬考えてしまうが、玄機さんいわく「江戸中期くらいの文献に『清風が吹く』と表現されているのですが、おそらく肥料も農薬もなかったその時代のお茶は、飲むと、スッとするんじゃないでしょうか。玉露のような高級なお茶ほどネトッと喉にへばりつく。あれは窒素化合物であるアミノ酸で、いわゆる旨味成分というやつです。旨味ではなく、清風が吹くようなお茶本来の『甘み』がある。それが僕の中では持続可能な理想のお茶です」。

 さらに「毎年違うテイストを届けたい」と玄機さんは言う。お茶も自然の産物なので厳密には毎年出来映えが異なれば味も異なる。一般的には、毎年違う茶葉から毎年変わらぬ味を届けるために、問屋は必死にブレンドや焙煎をして一定の味に調整し、そのおかげで顧客も毎年変わらぬおいしさを楽しむことができる。
 でも「僕らがそれと同じことをやると存在意義がなくなります。僕らはもっと違った味を楽しみたい。ものづくりを生業にする者として、全てを天候任せにして今年はこうなったから仕方がないと妥協してしまうのは嫌なので、この味を目指すという目標はあるのですが、自然のものだからどうしてもドンピシャにはなりません。だから、理想の味を求めながら、その年にしか味わえない変化を楽しめたらいいと思っています。たとえば今年はちょっとフローラル感が強いなとか。僕らにしかできないことをやりたいですね。生産者ってその点がすごい。小売りなら仕入れてブレンドか焙煎するしかないけど、僕ら生産者は葉っぱから変えることができる。発酵したり、蒸したり、釜で炒ったり、いろんな要素を組み合わせて僕らにしか出せない味をつくり上げることができるんです。ただ、その中でもハイレベルなお茶をつくりたい。単にヘンテコなお茶ではなくて、きちんと勉強して、基礎に基づいて、その上でなおかつ広い人々にインパクトを与えられるようなお茶をつくりたいですね。消費者だけでなく、茶業界のプロにもこいつらスゲエなって驚かれるような。このレベルのお茶を肥料も農薬も使わずつくれるんだなって。そうやってお茶に関わる人が無肥料とかオーガニックに関心をもってくれたらいいなっていう思いもあります。あと、無肥料によって香りがたってくるんですよね」。
 お茶本来の野性味あふれるスッキリとした飲み口で、香りがあって、飲んだ時に爽やかな気分になって、旨味はないけど甘みはあって…玄機さんのお茶を言葉で説明するのは非常に難しく「飲めば分かる」のひと言でまとめたくなる。初めて玄機さんのお茶を口にした人はよく「飲んだことがない味」と表現するという。

 「お茶に出会わなければ、これまで出会った人たち、たくさんのチャンス…今僕の周りにあるもの、居る人、全てがなかったかもしれないと思うとゾッとします。この道を選んで、本当に良かった」。今の玄機さんを支える全ての出会いは、玄機さんの人柄とお茶への思いが引き寄せたものにほかならない。いつ会っても変わらぬ穏やかな笑顔と、おっとりした口調で放つ鋭いジョークと、お茶を語る真剣な眼差しと…言葉で語るより、まず玄機さんのお茶を飲んでほしいと思うのと同じく、玄機さんのお茶の魅力を知るために玄機さんに会いに行ってほしいと思う。尾道のTEA STANDGENへ。

TEA FACTORY GEN公式サイト
https://tea-factory-gen.com/

TEA STAND GEN

〒722-0035 広島県尾道市土堂1丁目14-10
Tel.0848-88-9188
営業日/水木金土日祝日
営業時間/12:00-17:30

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掲載記事内容は取材当時のものであり、
現在の内容を保証するものではありません。