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ひろしま食物語 ひろしま食物語

頼もしいパートナーの登場

2018年5月執筆記事

三次市三和町
みわ375

片岡 誠

 三和を盛り上げようと新たな事業を計画していた片岡さんは、三次市地域おこし協力隊の藤原裕介さんとの出会いによって、思い描いていた 「三和の豊かな未来」 に向けて一歩前進した。「打ち上げ花火的な活動だけでなく、地域経済を活性化しないと本当に豊かにはならない。里山にあふれる魅力的な資源を三和の未来のために生かしたい」と片岡さん。「都会では埋もれがちな光も、田舎では思いきり輝ける可能性がある。無謀だと思う言葉も、思いきって発すれば、周りの人が呼応してつないでくれる」と藤原さん。そこにジビエはどう関わっていくのか、二人に話を聞いた。

 三和のジビエをさらに広めていくために、片岡さんが運営責任者となって、行政、地域の自治会連合会、スポーツクラブなど三和町の各種団体から構成される「みわ里山活性化推進協議会」が発足した。新事業を営むために農水省の補助金を申請中だ(2018年4月現在)。
 さまざまな展開を考えており、まずはドッグフードとしての鹿肉の活用。犬用に加工したシカのミンチ肉を販売する。捕獲したシカの部位のうち人の食用として使えるのはわずか2割程度といわれ、一般的には破棄されてしまう部分も、片岡さんは現在イヌ用のジャーキーとして加工・販売している。それらの商品は愛犬家から好評を得ているが、新事業では特に生のミンチ肉を推す。三和でとれた野菜とジビエを加工したレトルト食品(人間用)も開発し、イヌ用のミンチ肉とセットにして販売する予定だ。
 「主食ではなく、ワンちゃんへのおやつやご褒美として食べてもらえたら。鹿肉の成分によって毛並みがきれいになったり筋肉の発達を手助けしたりと、健康面での好影響が注目されています」と片岡さん。大量生産はできないし、良質な肉を提供するため安売りもできない。鹿肉の良さを理解し、ドッグフードにこだわる層にターゲットを絞り、徐々に愛犬家の中での認知度を上げていく狙いだ。

 「みわ里山活性化推進協議会」において、片岡さんの心強いパートナーとして事務局長を務めることになったのが藤原裕介さん。藤原さんは大阪府出身で、三次市地域おこし協力隊の隊員として活動しているが、任期を終えたら協議会の構成員として新事業の推進に専念する予定だ。IT関係の仕事に就いていた経歴を生かして、インターネット販売を中心に販路の整理・開拓を担う。
 藤原さんが地域おこし協力隊として活動しながらも一時目標を見失い悩んでいた時、片岡さんが相談に乗ってくれ「三和においでよ」と声をかけてくれたのが、出会いだった。協力隊任期満了後の進路は決めかねていたが、片岡さんの三和に対する思いを聞くうちに互いの距離は縮まり「ITの経歴をジビエに生かしてほしい」という片岡さんの気持ちに応えるべく「僕が力になれるのなら」と、三和に残ってジビエに関わっていこうと決心した。
 「最初はジビエに抵抗がありました。コンピュータと対峙していた自分が生きものに関わるとは思いもしませんでした。でも田舎特有の雰囲気なのでしょうね。人が人を変えていける地域ですよ、三和は」と藤原さん。大きなターニングポイントを迎え、地域おこし協力隊での残りの任期を全うし、その後も三和のために自分の役目を全うしようと、次の人生を見据えている。「現在、みわ375で製造から販売まで一貫して運営していますが、インターネット販売も始めるとなると需要はあっても追いつかない。県外への告知も十分ではないので、そのあたりを藤原さんに担ってもらえると心強い」と片岡さんも期待を寄せる。

 藤原さんは初めてジビエの加工現場を見た時、吊されているシカを見て拒否反応が起きたという。そのため最初はジビエを扱う度胸はないと臆していたが「僕は本質を伝えたいという思いがあって、自分の中で消化できていない言葉は話したくない。現場を知り自分の言葉で語れるようになって、確かな情報を求める人に的確に届けたい」と何度も現場に通ううちに、今ではすっかり免疫がついたようだ。「藤原さんは少しずつでもどんどん現場に近づいています。やはり現場を知らずに口先だけで語ってもなかなか売れません。現場を知っていれば何を聞かれても答えられるし、言葉の重みも、相手の反応も違います」と片岡さんも現場を知ることの重要性を強調する。
 藤原さんは三和に入る前、片岡さんが作っているドッグフードの販売に携わったことがあるが「売る難しさより、自分の言葉の足りなさを痛感しました。何も知らなかった当時は、正直、本当にこの商品がお金になるのかと疑問でした。でも三和に入り、三和の地域を知り、片岡さんが頑張っている姿を見て、ここに足を踏み入れた以上、しっかり現場を知ろうと思うようになりました」。

 ある日、藤原さんは片岡さんと共に県の事業で東京に行く機会があり、東京で片岡さんのジビエを扱っている取引先の人たちの声を聞いた。どれも商品を絶賛するもので、クオリティーの高さを肌で感じた藤原さんの中から半信半疑な気持ちは消え去り、今後のさまざまなプランが描けるようになったという。「僕の考えが変わったのは、ペットにとって食事がすごく重要なポイントだと教えてくれた人に出会ったのも、きっかけの一つです。広いペット業界の中ではジビエを必要としている層は限られていますが、ペットをテーマにしたとあるイベントに参加した時に、求めている人がいるのに購入できるルートが確立されていないと感じたのです。きちんと伝えることができれば層を広げられるのではないかという可能性も感じました」。

 新事業で最初に普及させたいのはドッグフードとしての生肉(ミンチ)。日本では愛犬の食事といえばドライや缶詰のペットフードが主流で、そこからいきなり全ての食事を生肉に変えるのは難しい。しかし飼い主が愛犬の食事や鹿肉について知識を得てくれれば変わる可能性はあると、片岡さんと藤原さんは考えている。「全く興味がない人よりは、少しでも愛犬の食事を変えた方がいいかなと心が揺れている層に、鹿肉を食べることのメリットを提案し、供給ルートを構築するのが課題。愛犬家が集うコミュニティーにいかにつながることができるかが重要になります。本質的に優れた商品は直接会って話すのがベストだと思うので、最終的にはイベントや店頭などで直につながることを見据えつつ、最初の入口としてインターネット販売を活用していきたい」と藤原さんは前を向く。頼もしいパートナーを得て、片岡さんもまた描く未来へと前進している。

みわ375

三次市三和町上壱2098-1
Tel.0824-52-2778
営業時間/10:30~18:00
定休日/火曜日

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掲載記事内容は取材当時のものであり、
現在の内容を保証するものではありません。