Loading...

ひろしま食物語 ひろしま食物語

「三原やっさタコ」全国へ

2017年11月執筆記事

三原市久井町
三原市漁業協同組合

三原市漁業協同組合

 三原の蛸は瀬戸内海の海流にもまれて引き締まった身が魅力。広島県産応援登録制度に登録され、ブランド蛸「三原やっさタコ」として関東の飲食店など県外でも喜ばれている。高まるニーズに応えるため、三原市漁協では急速冷凍の設備を導入し、とれたての旨味はそのままに、解凍後も刺身で食べられるほどの鮮度を保てるように加工場を整備した。
 一般的に、蛸のぬめりを取るためには塩もみが必要とされるが、三原やっさタコは自然解凍して水洗いするだけで、ぷりぷりの食感と本来の旨味を堪能できる。むしろ、塩もみすると硬くなってしまい、せっかくの旨味もぬめりと共に流れてしまうのでもったいないのだ。

 三原やっさタコとしてブランド化に動き出したのは、濱松組合長が就任し、下降傾向だった組合の運営を改善するため策を考えていた頃。当時、世間では地産地消を推進するムードが高まっており、昔から三原の売りとなっている蛸をもっと広め上手く活用できないかと考えた。
 手っ取り早いのはとれたものを直接市場で売ることだが、それでは多い時期、少ない時期と、漁のとれ高に左右されてしまう。ならば、たくさんとれた時の蛸を保存しておくことができれば、安定して供給できるのではないかと「冷凍保存」をひらめいた。
 ヒントになったのはマグロ。船上で即冷凍されて陸揚げされたマグロを、私たちは解凍して刺身で食べている。この仕組みを蛸に応用しようと考えたのだ。精力的に調べたり見学に回ったりする中で急速冷凍を知った濱松組合長は、みるみるうちに魚を凍らせてしまう急速冷凍の威力を目の当たりにし、これなら鮮度を保てると確信。さっそく急速冷凍機器のメーカーに連絡し、試しに蛸の急速冷凍を依頼した。

 出来上がった冷凍蛸を刺身で食べてみると、それまで生で食べていたのと変わらないおいしさ。これならいけると導入を決めた。時期を選ばずニーズに応えられるようになって引き合いも増え、2年目にはさらに大きなフリーザーを追加。加工場を整備して真空パックも可能となった。三原やっさタコ人気の上昇に伴い保存用の冷凍庫も徐々に拡大した。
 フリーザー導入以降、広島県内のみならず関東や関西をはじめ県外の飲食店からも注文が入るようになり、ネット販売も好調だという。評判が広まると広島県から広島県産応援登録制度に登録され、ますます認知度は高まった。
 次々に売れるのはうれしい悲鳴だが、蛸は海からの恵み。「海と相談しながら、そして新しい取引先だけでなく昔から支えてくださった方々を大切にしながら、できる範囲内で販路を広げています」濵松組合長は攻めと守りのバランスを大切にしている。

 漁業は全国的に高齢化と後継者不足が問題となっているが、三原も例外ではない。新規就労者に対して国が補助するなどの施策もあり三原にも研修生が訪れることがあるが、なかなか定着しない。
 三原では蛸壺漁は親や親族から代々漁場を受け継ぎながら続いてきた。濵松組合長の家系も代々漁師だ。遠い昔の先祖はアザラシをとりにオホーツクに出ていたとか。「濵松」という姓も浜に立つ松に由来しているという。濵松組合長だけでなく三原の漁師には海にちなんだ名前が多い。ちなみに弟さんも三原市漁協の組合員で、共に漁師として働いている。
 子どもの頃から父親と漁に出ていたという濵松組合長。「漁師になるのが当たり前で、一度もほかの仕事を考えたことはない。海が好きというより、海と共に暮らすのが当たり前。自分は勉強をあきらめて漁師になったから、自分の子どもには勉強させてやりたかった」。二人の息子さんは現在サラリーマンだそうで、後を継ぐ予定はないらしい。
 でも「甲子園に出場した高校球児の孫がいて、今は野球漬けの毎日だけど、高校に行かせる時に、野球を辞めることになったら漁師になると言ってくれてね」と目を細める。お孫さんが将来どのような道を選ぶかは分からないが、もし本当に漁師になる時が来たら「私が元気な間なら技術は教えられるからね」濵松組合長の密かな夢がかなう日が、もしかすると訪れるかもしれない。

 濵松組合長の妻・眞弓さんは道の駅「みはら神明の里」で鮮魚部門責任者を務めている。三原生まれ三原育ちで、濵松組合長が23歳、眞弓さんが19歳の時に結婚し、46年間連れ添っている。両親も漁師だったため、海と共に生きる暮らしは眞弓さんにとって自然なことだ。
 組合長の人となりについてたずねると「何事にもアクティブ。仕事だけでなく、昔は息子、今は孫、家族のことにも積極的に関わるし、私の仕事にも協力的です。やるといったら行動するから、しょうがなしについていくんですよ(笑)」。
 濵松組合長は30代で三原市漁協の理事を務めるようになり、57歳で組合長に就任した。年配の組合員が力を持つ中で、ある日「役員になりたい」と告げられた眞弓さんは驚き「みんなついてきてくれるのかな」と不安はあったそうだが、それ以降、若い漁師が組合を盛り上げようと前に出るようになったという。
 「若い時は、まさかここまでになるとは思ってなかった。三原のタコをブランド化した時も、最初は周りもこんなに有名になるとは思っていなかったでしょう。三原のタコが全国に届くようになった。ここまでやってこられたのも協力してくださった方たちのおかげです。夫は好奇心旺盛で、何でもやってみたいという人。相談もなしに即行動ですから、私は一生懸命ついていくだけ。何でもそう。今でもそう。それでも夫婦が仲良くやっていければいいじゃない」。

 眞弓さんは結婚してからずっと濵松組合長と共に漁に出ていたが、一人で作業をこなせるくらいに漁の設備も整い、息子が高校を卒業して手が離れたこともあって、地元のスーパーに働きに出るようになった。14年間、鮮魚部門で朝から晩まで刺身を引いていたが、2012年に道の駅「みはら神明の里」のオープンが決まってから開業準備に関わり、鮮魚部門の責任者に着任、現在に至る。
 三原の魅力がギュッと詰まった、三原を愛する人たちがつくる道の駅「みはら神明の里」は、現在、観光客にも地元の人にも親しまれる人気スポット。三原市漁協から、毎日蛸をはじめとれたての魚が届き、鮮魚コーナーはもちろん、漁師家庭直伝のオリジナルメニューやお総菜も好評。近隣の農家さんが大切に育てた野菜もたくさん並ぶ。瀬戸内海の多島美を見渡しながら、三原グルメをほおばれば、おいしさも格別。おすすめ商品や調理法、三原の見どころなど、聞きたいことがあれば気軽にスタッフに声かけを。人と人との交流もまたお楽しみの一つだ。

 大好評の「タコ飯」「タコ天」「タコ入りコロッケ」など道の駅で販売される惣菜のレシピは全て眞弓さんが考案。自宅で作っている味を販売用にアレンジし、試作してはスタッフの意見を聞いて改良し、店頭へ。特に眞弓さんのレシピで炊く「たこ飯」は大好評だそう。
 三原市漁協の組合員なら誰でも道の駅に入会でき、いつでも自らとった魚を道の駅に卸すことができるので、鮮魚コーナーには毎日とれたてが並ぶ。「ほかで買うのとは味が全く違う」お客さんに喜ばれると、漁師の思いが伝わったようで、眞弓さんにとっても大きな喜び。店頭で生の声を直接聞くことが何よりの励みになるし、さまざまな意見を取り入れながら商品開発や売り場づくりに取り組んでいる。
 「新鮮な三原のタコはシンプルに味わうのが一番。道の駅ではほかにも『タコの吸い口』『タコのエラ』『タコの白子』など蛸の町ならではのお惣菜もいろいろ。獲れたて鮮魚は朝早めのご来店がおすすめです。ぜひ道の駅にもお立ち寄りください」。今後は、鮮魚の詰め合わせの全国発送をもっと広め、道の駅を拠点に全国各地へ、もっと三原の蛸をはじめおいしい魚を届けたいと意気込む。

 六人姉妹の三女である眞弓さんだが、今でも六人そろってモーニングやランチに出かけるほど姉妹は仲良し。二人の息子も結婚して近くに住んでいるため、孫も一緒によく遊びに来るという。生まれ育った三原の港町で、昔も今も、愛する家族に囲まれて暮らす幸せ。ふるさとの魅力を、漁師たちの思いと共に、地域の人たちに、さらに全国の人たちに届ける幸せ。好奇心とチャレンジ精神旺盛な濵松組合長と共に、眞弓さんの挑戦もまだ続く。

三原市漁業協同組合公式サイト
http://www.miharashi-gyokyou.com/

三原市漁業協同組合オンラインショップ
https://yassatako.theshop.jp/

三原市漁業協同組合
〒723-0013 広島県三原市古浜1丁目11‐1
Tel. 0848-62-3056

この記事をシェアする
FacebookTwitterLine

掲載記事内容は取材当時のものであり、
現在の内容を保証するものではありません。