6月12日、稚海老放流日。あいにくの雨の中、ファームスズキに向かった。到着時には稚海老が届いていなかったため、すでに放流を済ませてある池での餌やりに同行した。
放流したら、毎日朝昼晩餌を撒く。餌の原料は、魚、エビ、イカ、貝、小麦粉、ビタミン類、色素で、すべて天然由来。人が食べても全く問題ないといわれて1粒味わってみた。特に味はなく、ドッグフードに似ていた(ドッグフードも味見済み)。この日は池の広さに似合わない卵サイズの小さなスプーン状の道具で、少しずつ行き届くように餌を撒いていた。まだ車海老が小さいうちは、餌を探す能力が低く、広範囲に満遍なく撒いてやらなければ餌にありつけない。そうなると、お腹をすかせて共食いしてしまうこともあるからだ。成長につれて道具も大きくなる。放流した後は池の管理だけしていれば自然に育っていくようなイメージを勝手に抱いていたが、毎日手間暇かけて世話していることに驚いた。
そうこうしていると稚海老が到着。30センチ四方ぐらいの発泡スチロールから1匹すくい上げてみると、体長約2~3センチ、稚海老としては大きい。これには理由がある。ファームスズキでは、3~5月は牡蠣の出荷が繁忙期となるため、稚海老を放流するのは6月上~中旬。11月の収穫時期から逆算すると、このサイズでの仕入れが適切となる。大きな稚海老は単価が高いが、牡蠣の養殖と並行しているファームスズキではこれがベストなのだ。
稚海老を放流するころには、降り続いていた雨が嵐のような激しさに。そんな中、黙々と放流を完遂。「ここは比較的穏やかだけど、今日は日本海の荒波みたいでしたね」と鈴木さんも笑っていた。「この稚海老たちが、これからどのように成長していくんだろう」とても楽しみになった。
それから4カ月が過ぎた10月の収穫撮影日。朝8時30分、気温16℃。あいにくの雨で太陽が顔を出さず、余計に肌寒い。軽トラで一番奥の2号池へ。収穫用に餌を入れて仕掛けておいた六つの網を次々に、鈴木さんとスタッフの藤川さんが二人がかりで手際よく引き上げる。網の中では車海老がピチッピチッ! 威勢良く跳ね上がり、開けると勢い余って外に飛び出してしまうエビも。6月の放流時に体長2~3センチだった稚海老は15センチを超え、プリプリと立派に成長している。中には体長を超えるほどの長いヒゲを生やした貫禄ある姿が何匹も。ヒゲの長さは健康のバロメーターで、長いのはストレスなく元気に育った証拠だという。「手に持つと、指に鼓動が伝わってくるんです。やっぱり生き物なんだなって思いますよね」。しみじみと、池から揚げたばかりの車海老を見つめる鈴木隆さん。「エビの鼓動」これまで考えたことも感じたこともなかった編集部には、そんな当たり前すら新鮮だった。驚いたのは、車海老の中にカニが混ざっていること。おそらく放流時に卵が紛れ込んでいたのだというが、カニの成長ぶりが、いかにこの池が栄養豊富なのかを物語る。
収穫量は水温などその日の環境で変わる。この日、池の水温は、この時期にしては低めの22℃くらいで、あまりとれないのではないかと収穫前は心配していたが、ふたを開ければ15~16キロで、悪くはないらしい。多い時は20~30キロにもなるという。今回は2号池だけで4カ所、同様に収穫を済ませて生け簀へ。生け簀の水温は池よりも低い10.9℃を指していた。急激に低温下に入れることで、跳ね回っていた車海老がおとなしく、仮死状態に近くなり、鮮度が保たれる。通常は収穫翌日、繁忙期には収穫当日の昼には出荷される。
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