「今日は朝からほうれん草のナムルを作って、豚汁を仕込んで。豚汁うまいですよ! 食べる? これ食べたらほかの豚汁が食べられなくなるけど、いい?」自信たっぷりに、自身でハードルをガンガン上げていく神農さん。取材後、神農さんが直々に腕を振るった手料理でもてなしてくれた。
wagricaの事務所で井上社長の取材を終えると、台所から「お昼ご飯の用意ができましたよ!」と絶妙なタイミングで神農さんの声が響く。同時に食欲をそそるいい香り…。「わ~! おいしそう!」wagricaスタッフと編集部が口々に発して食卓へ。鯖を主菜にほうれん草のナムルなど数種の副菜がワンプレートに盛り付けられ、豚汁とご飯が並ぶ。昆布の佃煮以外は全て神農さんの手作りだそう。「いただきます!」手を合わせて記念写真をパシャリ。
あれだけうまいうまいと連呼されれば期待が高まらないわけはない。嬉々として箸を取り、さっそく豚汁から。「おいしい!」皆から感動の声が上がる。ナムルも、鯖も、お米も、どれをとっても「ん~幸せ…」と一つ一つじっくりかみしめたくなる味わい。自然の命がしみわたり、体が喜んでいるのを感じながら。今回は食レポではないので詳細には記さないが、家や会社の近くに「神農食堂」がオープンしたなら毎日通いたい。神農さん、ごちそうさまでした! ほんっとうに、おいしかったです!
この春は新型コロナウイルス感染症が世界を混乱に陥れた。今号の取材はちょうど同時期にぶつかってしまい、直接神農さんに会うことや畑を訪れることは自粛せざるを得なかった。コロナ騒動前から数回の訪問となったが、思い返せばwagricaの事務所ではいつも音楽が鳴り響いている。事務所は田園風景の中に佇む古民家。家の前に車を停めて外に出ると、家の中からズンチャズンチャと音楽が聞こえてくる。ジャンルは日によっていろいろ。
実は、農業家としての顔とは別に音楽家としての顔も持つ神農さん。十代から音楽活動を続けており、現在進行形だ。「久しぶりにシングルをリリースするんですよ。去年から作り始めてようやく完成したんです。聴きます? 農業とは全く違うイメージなので、驚くと思いますけど」ぜひぜひと聴かせてもらうと、確かに「農業」「自然」といわれて連想するイメージとはほど遠い。体の奥まで揺さぶられるようなドラムンベースがズンズンズン…と響きわたるエレクトリックな音色。
神農さんは就農前に一般企業で働いていた経歴もある。農業も含め「仕事」として取り組む以上「やるべきこと」がつきものであり、それら全てが必ずしも自らの自然意志に沿うものとは限らない。時には現実に背を向けたい自分を納得させながら、よっこらせと重い体を前向きに方向転換しなければならないこともある。そんな現実を受け入れながらも、自分に正直である道を選んできた神農さんにとって、音楽は「自分のまんま」をさらけ出せる場所なのかもしれない。
大学まで真剣に取り組んでいた野球や、仕事や、農業や、さまざまな挑戦と日常の中で、どんな時も音楽を手放すことはなく、いつもそばにあった。ワークライフバランスとかライフワークとか、そんな言葉ではまとめられないが、もはや切り離すことのできない音楽と神農さんとのつながり。これからも音楽と寄り添い生きるというスタイルはきっと変わらないのだろう。「自分が手を抜けば、食べる人にも聴く人にも、それだけのものしか伝わりません。音楽も農業も、本気で追求していく気持ちは同じです」。
神農さんの「本気」が伝わるから、いつも取材の最初はどことなくピリッとした緊張感が走る。しかしひと言切り出せば、次から次へとあふれんばかりの「熱」が神農さんから湧き出てくる。マグマのように噴き出してくるとでもいおうか。熱い、熱い、面白い、厳しい、真剣、そしてやっぱり熱い。終わってみればライブを観戦した後のように、こちらの気持ちも発熱している。こんな感染なら心地いい。神農さんが人を引きつける理由が、分かるような気がした。
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、世界的に「いつもの毎日」からの切り替えを余儀なくされた人も多かったことだろう。この記事を読む頃も、まだ全てが完全に元通りとはいかない日々が続いているかもしれない。今号の取材も例外ではなかった。生産者さんに直接会い、畑に足を踏み入れて…いつもなら何度も生産者さんのもとを訪れて会話と体験を繰り返す取材も思うように進められず。そんな中、wagricaの神農さんにはできるだけ直接お会いしない形で取材にご協力いただき、神農さんが実践する農業や小玉西瓜のこと、購読者の皆さまに伝えたい思いなどを語っていただいた。この夏はSTAY HOMEを各々のスタイルで楽しむ人も多いかもしれない。いつものわが家で、wagricaの小玉西瓜にかじりつきながら安芸高田市の西瓜畑へ「心の旅」を。
wagrica公式サイト
https://wagrica.co.jp/
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掲載記事内容は取材当時のものであり、
現在の内容を保証するものではありません。