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ひろしま食物語 ひろしま食物語

自分たちの卵にできること

2020年5月執筆記事

山県郡北広島町
四ツ葉農場

横山 慎士

 養鶏を始めて2年が過ぎた2016(平成28)年5月、慎士さんは店を開いた。四ツ葉農場で育てた卵を使ったお菓子を製造、販売する店だ。イベントで出店する際、卵だけではさみしいので何か一緒に出せたらいいなと思い「卵といえば、お菓子かなと。あと、商店街の再興に少しでも力になれたらと思って」。店を構えた商店街はかつて映画館やボーリング場、銀行や洋服屋さんなどが立ち並びにぎわっていたという。
 古き良き時代のなごりをとどめる古民家を改装した店舗が歴史ある商店街になじみ、建物の2階にかかる年季の入った靴屋の看板がまたいい味を醸し出している。店内は慎士さん自ら設計・デザインを考えた木のぬくもりあふれる空間。ディスプレイされているいくつもの鶏グッズは、自分たちでチョイスしたものに、プレゼントされたものが少しずつ増えているのだとか。店休日は忙しい週末明けの月・火曜日。
 ショーケースに並ぶのは自家製プリンと自家製シフォンケーキ。取材に訪れた日はちょうどバレンタイン当日ということもあって、可愛くデコレーションされたチョコレートプリンも仲間入りしていた。
 店の名前は「にわのにわとり」。語呂がいい。「2羽ですか? 庭ですか?」と尋ねると「どっちだろう? ってネタにしてもらえるのもいいなと思って(笑)」と慎士さん。店の商品を見ると、プリンは「ぷりんマドンナ」、星形のパッケージに入った卵は「きみがスター」とユニークなネーミング。なるほど、慎士さんは言葉遊びが好きなようだ。
 商品名は遊び心たっぷりだが、商品作りは真剣そのもの。お菓子作りは初体験だったという慎士さんは、いろいろな人に作り方を教わりながら試行錯誤し、プリンにおいては1000回は試作したという自信作。
 地元以外にもSNSなどで知り遠方から足を運んできたり、出店しているお取り寄せサイトでリピートしたり、口コミで徐々に広がり着実にファンが増えている。今後は「北広島町はおいしいお酒も自慢なので、お酒に合うプリンを作ってみたいですね」と町の未来も見つめている。

 そんな「にわのにわとり」の展開を慎士さんと共に担っているのが、妻のまいさん。養鶏を始める前に出会い、3年前に結婚。慎士さんが夢をかなえていく姿をそばで見守り支えている。まいさんは0歳の愛娘めいちゃんの育児と家事をこなしながら、慎士さんは鶏の世話をしながら、お互いに大切な役割を分担し、店番は交替でこなしている。
 「妻は鶏舎の仕事にはノータッチですが、鼻がきくので普通はあまり気づかない卵の臭いなど変化を敏感に察知して指摘してくれます。その意見を参考に飼料を変えるなど工夫しています」まいさんは慎士さんにとって頼れるアドバイザーでもある。
 にわのにわとりの店舗またはインターネットショップでは四ツ葉農場の卵、プリン、シフォンケーキのほか12月頃には地鶏も購入できる。ぜひ店に足を運んで慎士さんとまいさんの人柄に触れてほしいが、なかなか訪れることができないという人はブログやネットショップをのぞいてみてほしい。

 養鶏を始めた当初は採卵鶏のみだったが、鶏舎の移転を機に食用鶏の飼育も始めた。食用は主に地鶏でブロイラーも少々。
 「鶏肉」とひと言でいっても、国内で流通する鶏肉は「ブロイラー」「地鶏」「銘柄鶏」と大きく3種類に分けられる。違いを簡単に説明すると、ブロイラーは生後50日程度の短期間で出荷される肉用若鶏を指し、スーパーなどで「若鶏」として売られているポピュラーな鶏肉。地鶏は、在来種系、飼育期間、飼育環境などJAS(日本農林規格)が定義する基準を満たした鶏肉で、肉質や食味などに優れ高値で取り引きされる。比内地鶏、東京しゃも、名古屋コーチンなど、その名を耳にしたことがあるだろう。銘柄鶏はJAS基準など明確な定義はないが、産地ごとに飼料や飼育方法を工夫して質を追求した鶏肉。南部どり、伊勢赤どり、骨太有明鶏などがこれにあたる。
 「育ててみて難しさを痛感しています」と慎士さんが苦笑いする通り、地鶏やブロイラーのひなはとても繊細で、些細な条件で弱ったり死んでしまったりと目が離せない。気になって深夜に何度も様子を見に行くこともあるという。
 現在、採卵鶏は通年300羽、地鶏は年末販売用に夏あたりから期間限定で100羽、ブロイラーは今回の食べる通信用といったような形で状況に応じ育てている。採卵鶏は増加する注文に対応するために鶏舎を一棟手造りで新設予定だが、食用鶏は現状で手一杯なので慎重に検討するとのこと。ゆくゆくは雇用も考えているが、現在は慎士さん一人で管理しているので、無理なく目が行き届く範囲にとどめ、納得の品質を目指している。

慎士さんの理想は、やわらかく味が濃い鶏肉。さまざまな条件によるが一般的には長く育てると味は濃くなるが硬くなるといわれ、その加減が重要となるが、慎士さんの場合、地鶏は150日程度、ブロイラーは100日程度を一つの目安としている。時期によっても生育状態は変わり、夏よりも冬の方が身がしっかり付き脂が乗っておいしいという。
 鶏卵については、以前目指していた味とは変わってきたそうで、現在は新たな理想の味を求めて試行錯誤の日々。
 「最初に見学した農場の卵が、甘くてすごくおいしくて、こんな卵が作りたいと思って追求しているのですが、以前、放し飼いにしてほったらかしだった鶏がたまたま産んだ一つの卵が食べたことのないおいしさだったんです。以来、どうすればその味が出せるかも研究しています。限りなく自然な環境がその味をつくり出すのかなと思うのですが。クセが強いので数を限定して作るのもいいですね」。
 いったいどんな味なのか、どれほどのおいしさなのか。慎士さんいわく「ちょっとえぐみがあるというか、口にした瞬間は漢方のような苦みを感じるのですが、後からふわ~っと甘さが広がるんです」。う~ん、気になる。慎士さん納得の卵がめでたく産み落とされたら、ぜひともその「究極の卵」を味わってみたいものだ。

四ツ葉農場公式サイト
https://www.yotsuba-farm.net/

にわのにわとり

山県郡北広島町後有田1299
営業日/金土日
営業時間/11:00~18:00

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掲載記事内容は取材当時のものであり、
現在の内容を保証するものではありません。